大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和27年(う)518号 判決 1952年6月17日

控訴人 被告人 松田小市

弁護人 大和勝栄

検察官 宮井親造関与

主文

原判決を破棄する

本件公訴を棄却する。

理由

弁護人大和勝栄の弁論要旨は、その控訴趣意書記載の事実と同一であるからここに引用する。

先づ職権を以て公訴提起の手続を調べてみよう。少年事件につき公訴を提起するには、事件が家庭裁判所から検察官に送致されたことを要する。然し家庭裁判所が検察官に事件を送致するのは、その罪質及び情状等に照して保護処分よりも刑事処分を相当と認めた場合の送致で、それはどこまでも少年事件としての処理の場合に限ると解すべきである。家庭裁判所が少年を成年と誤認して、少年法第十九条第二項によつて検察庁に事件を送致した場合は、家庭裁判所のその処理は少年事件としての処理ではない。それで若し検察官が家庭裁判所の右誤を発見できずして、そのまま公訴を提起したときは、その公訴提起は、少年に対しては保護処分を原則とする少年法で認めている少年の重大な利益を害するもので、無効であるといわなければならない。今本件についてこれをみるに、福岡地方検察庁小倉支部の検察官は、被告人を昭和六年七月二十七日生として福岡地方裁判所小倉支部に同二十六年八月九日同庁受付で公訴の提起をしている。ところが原審第一回公判期日において、被告人は昭和七年七月二十七日生と申し立てたが、裁判官は審理をつづけ、出席の検察官の求めによつて、福岡家庭裁判所小倉支部の送致決定書等の取調を了し、同検察官は被告人の身上関係につき本籍照会をするため期日の続行を求めた。そして第二回公判期日において、被告人に対する本籍役場の身上調書に関する照会回答書等の取調があつて、同検察官も被告人を昭和七年七月二十七日生の少年と認め不定期刑の求刑をなし、原裁判所もまた少年と認めて同二十六年十二月二十四日原判決の示す通り被告人に対して不定期刑の言渡をしている。而して右福岡家庭裁判所小倉支部の送致決定書には、被告人が昭和六年七月二十七日生の満二十才以上であることが調査の結果判明し同裁判所において審理することができないので少年法第十九条第二項に則り事件を福岡地方検察庁小倉支部の検察官に送致する旨記載してある。即ち右手続は家庭裁判所を経てはいるが、少年事件としての家庭裁判所の処理を経ているものではない。しかも本件事案自体を記録に照してみるに、或は家庭裁判所の保護処分の方が裁判所の刑事処分よりより相当ではなかろうかとも思われる。以上の次第で本件公訴提起は、前段説明の理由によつて手続がその規定に違反しているため無効である。然るに原裁判所は、本件公訴を棄却せずして被告人に対し前記のように不定期刑の判決を言い渡したのは、結局不法に公訴を受理した違法があり、原判決はこの点においてすでに破棄を免れぬから所論のような控訴事由については判断を省略する。而して本件は当裁判所において直ちに判決することができるものと認めるので、刑事訴訟法第三百九十七条第四百条但書によつて次のように破棄自判する。

本件公訴事実は、原判決に示している罪となるべき事実であるけれども、被告人が少年であることは原審第一回公判調書中の被告人の供述記載及び身上調査に関する照会回答書の記載で明らかであるから、右訴訟法第三百三十八条第四号によつて本件公訴を棄却する。

仍て主文の通り判決する。

(裁判長判事 西岡稔 判事 後藤師郎 判事 大曲壮次郎)

(弁護人の控訴趣意は省略する。)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例